組織におけるガバナンスの確立、利便性や安全性の追求や新サービスの展開など、アイデンティティ管理基盤の形成が標準化の動きを含めて注目されているところです。日本における社会保障の共通番号制度や医療分野における情報管理、米国のホワイトハウスが提案している消費者に安全な識別子を導入することや、オンライン取引時のアイデンティティ認証の義務付け等、国家的な政策としてのアイデンティティ管理にも広がりを見せています。
本コラムでは、ガバナンスの要のひとつであるアイデンティ管理の現状、さらに我が国GDPに大きく寄与する中小企業の競争力とアイデンティ管理について複数回にわたって報告します。
コンプライアンス(法遵守)への対応が導入の契機となり、アイデンティティ管理市場が急成長しています。 また従前から多数のシステムに分散するアイデンティティ管理コストの軽減や利便性を高めるシングルサインオン(SSO)の導入と言った要求からアイデンティティ管理製品の需要が高まっています。
今後は、そうした需要に加えて、複数の社内外システムとの連携を図ることによる新サービスの創出や販路拡大、情報共有によるイノベーションの創発に向けた需要も出てくると予想されます。
複数のクラウドコンピューティング・サービスや自社内システムとのアクセス、サービス間連携を効果的で容易に実現するためには、SSO(シングルサインオン機能)やアイデンティティ連携などのアイデンティティ基盤の整備が不可欠です。Cloud Security Alliance(CSA)でもクラウドコンピューティングセキュリティのためのベストプラクティスを示したガイドラインの中で、アイデンティティ基盤についても言及しています。アイデンティティ連携、標準化が進むことによりクラウディングコンピュータの可能性も広がることが期待されます。
【CSAガイダンス:Identity and Access Managementの抜粋 】複数のクラウドコンピュータサービスや自社を含め、多数のシステムが混在利用する傾向は今後益々増えてくるものと予想されます。一方雇用形態も多岐にわたっており,人の流動性も大きくなっています。こうした状況の中にあって、下記に示すようにアイデンティティ管理に関わるコスと運用管理負担の増加、誤りや不正による情報漏えい等のリスクの増加といった問題が懸念されています。
① カウントの IT部門における運用業務の負担
情報システムを利用するアカウントはシステムごとに存在することが多く、企業におけるシステムの数は年々増加しています。システムが増加することで、ユーザー1人当たりのアカウントの数も増加し、複数のパスワードの取り扱いがユーザーの負担となり、アイデンティティ情報の管理の煩雑化から運用業務の工数が増大する一方であることが現状です。
② ユーザーの複雑化、流動性
一方ユーザーは、正社員だけでなく、契約社員や業務委託先など多様な雇用形態から成り立っています。また従業員の配置転換や組織上の変更が日常茶飯事に発生しています。
③ アイデンティティ情報の散在による悪影響
シングルサインオンやアイデンティティ連携の実現により、SaaSサービスと企業間やグループ企業間、事業部間等において利便性が格段に向上した新たなサービスの展開が期待できるようになります。
<新サービスの事例>
【参考:資金決済法】
銀行以外の事業者にも資金移動サービスを認める「資金決済に関する法律(資金決済法)」が2009年6月国会で可決・成立し、2010年4月から施行されました。資金決済法は、現在は銀行のみに認められている送金などの為替取引について、広く資金移動業者にも認めようとするものです。
アイデンティティ基盤の整備は、関連するシステムが多様で複雑であること、効果的な運用管理が求められ、セキュリティの要の一つでもあることから要求されることも多様です。以下に要求条件の一例を示します。
現在アイデンティティ管理をめぐる業界標準としてLibertyAlliance、CardSpace、Open IDの3つの動きが活発化しています。
LibertyAllianceはOracle、 Sun、 NEC、 NHK、 NTT等が推進しており、CardSpaceは、カードイメージでアイデンティティ情報を管理する技術で、Microsoft、 Novell、 IBM等が推進しています。URLをIDとして用いるアイデンティティ管理技術仕様でありMicrosoft、IBM、 Verisign等が進めている技術がOpen IDです。各プロトコールは、それぞれ競合する仕様というよりは、用途・目的に応じて使い分けられるものとして普及していくものと思われます。
近年の標準化の対象は、アイデンティティ連携(パートナ間でアイデンティティ情報を関連付け)、認証連携(組織をまたがるシングルサインオン)、プロビジョニング(アカウントの配布機能の拡張)、属性情報交換(信頼するパートナ間で属性情報の共有)が挙げられています。
各標準化では、関連する技術に関わる人々に対して、オープンな議論の場を提供して相互運用性を確保しようとする動きが活発化しています。Concordia プロジェクトでは、各種ID 管理技術の相互運用確立を目指して組織されたプロジェクトです。利用者は、これらのWeb サービスを自分のID に基づき安全・安心に、かつ統一的に使えることを望んでいますが、現状は、各種規格が並存しています。この問題を解決するために、LibertyAlliance が中心になってConcordia プロジェクトが設立されました。プロジェクトには、代表的なID 管理技術であるLibertyAlliance、OpenID、CardSpace に関係するベンダーとその利用者が参加しています。
アイデンティティ管理基盤の形成は、今日のガバナンス時代を支える要の一つであることを解説する予定です。
NTTデータ・セキュリティ(株)
エグゼクティブ・セキュリティマネージャ
林 誠一郎
1974 年:電電公社横須賀電気通信研究所に入所(大型計算機アーキテクチャの研究)
1983 年:電電公社研究開発本部(研究戦略の策定)
1991 年:NTT本社・技術調査部・部長(技術戦略の策定)
1993 年:NTT 情報処理研究所主幹研究員(暗号技術の研究開発)
1995 年:NTT データ技術開発本部・部長(セキュリティ技術の開発)
1999 年:NTTデータ金融事業本部・部長
1999 年:日本インターネット決済推進協議会 理事・副事務局長
2002 年:東京大学 国際・産学共同研究センタ・客員教授
2005 年:NTTデータ・セキュリティ
