―米国視察を終えて―
今回は日本版SOX法についてお話する予定でしたが、5月末に訪米し(ワシントン、ニューヨーク)、SOX法に関して現状の対応状況や課題、今後の方向について意見交換しましたので、その報告をすることとし、日本版SOX法については次回以降報告する予定です。
SOX法に対応して2年目を迎えた米国企業では、10社に1社の割合で重大な欠陥が指摘されています。1年目は7社に1社が指摘されていましたので、整備が進んできていると言えるでしょう。この結果はムディーズによる格付けにも反映され、少なからず株価にもインパクトを与えていると思われます。 監査法人や企業で聞いた米国企業のSOX法の対応状況について、その模様をお話します。
某監査法人では25の企業を対象として、SOX対応コストや内部統制の充足状況を調査しており、その結果を公表しています。それによるとSOXにおけるリーディングカンパニ(低コストで効果を挙げている)として5社が挙げられています。いづれも高度にシェアードサービスを利用していたり、自動化が進んでいる企業が挙げられておりました。また、企業のビジネスモデルがシンプルな程、業務プロセスのコントロールも容易で内部統制が効き易くなっている結果がでているようです。
一方内部統制の限界についても触れられており、「内部統制担当者の判断の誤りや不注意」、「想定外の取引の発生」、「内部統制担当者による共謀」、「内部統制責任者自身による内部統制の無視」等が関わり、内部統制が絶対的な保証を与えられるとは限りません。むしろ合理的な範囲で統制体制が整備されていくことが求められていると言えるでしょう。
少し細かくなりますが、監査経験からいくつかの教訓が指摘されておりましたので、紹介します。
SOX対応に要するコストは大きく、その効果に疑問を持つ人の声が日増しに大きくなっており、そろそろ揺り戻しが起きはじめているようです。
実際はコスト負担が極めて多きにもかかわらず、企業にとってのアドヴァンテージが少ない。15000社のSOX対象企業に対して虚偽報告をするのは、せいぜい20社程度であり、エンロン事件が発生しても株価は上昇し、ワールドコム事件の発生ではダウジョーンズは6ポイントしか下がらなかった。むしろSOX法可決直後の株価は企業のコスト負担への懸念から下落。大統領がSOX法制定を宣言した時には178ポイントも下がった(SOX法は投資家を保護するためのものだったにもかかわらず)。
透明性確保の観点から、独立した外部役員の登用が進められており、経営者と役員の関係が厳しく変わってきている。すなわち敵対的関係が生じるケースも多く、そのため経営者はリスクをとらなくなっていると氏は指摘する。
朝日新聞5月25日版によると、「エンロン元会長らに有罪評決」との記事に合わせて、以下のような動きを報じていましたが、今後のガイドライン等にも少なからず影響を与えてくるでしょう。
某大手米国金融機関のSOX法対応について実情を聞きましたが、コスト負担を訴える中で切実な声が印象に残っています。「法順守をねらいとしたコスト負担ではなく、ビジネスを活性化させるねらいで取り組みたい。その意味でSOX対応も全体的なリスクマネージメントの中で捉えて行きたい」。
最近はリスクをネガティブファクタとしてだけではなく、ビジネスチャンスの好機として捉えるようになっています。特に規制の多い金融や通信業界ではこのSOX法等の規制を契機として、自動化やシェアードサービスの利用を進めリアルタイム経営やコスト削減に効果を上げている企業も多いようです。
次回は日本版SOX法について解説する予定です。
東京大学
国際・産学共同研究センター
客員教授
林 誠一郎